プロローグ

 

 

 

 

 

 たとえば願いが叶うなら。

 なんてことを思っても意味がないことを、僕は知っている。それに願い事なんて考える余地もないくらい、十分に幸せだと思っている。

 

 今までの魂の誰も手に入れられなかったものを僕は手に入れる事が出来た。可哀想な僕のひとつ前の魂も、不憫なもうひとつ前の器も。そしてそれ以前の膨大な記憶たちも、誰ひとり。

 そう、誰ひとり、手に入れることが出来なかったもの。

 

 僕は自分の王に我が身の秘密を明かし、側にいられるという幸運だけでなく、僕等の源の存在を身のうちに収めて彼の王に託す栄誉までもを与えられた。

 

 僕は、村田健を全うすることを許された。

 

 還るべきたったひとつの御霊に彼が辿りつくその日まで。僕は僕として、僕の王の元で生きることを許された。慄きすら覚えてしまうその事実。その幸運。

 

 渋谷。

 それでも君は怒るだろうか。

 僕が僕として、僕の為に。

 君の為に生きることを、それでも君は怒るのだろうか。

 

 だからやっぱり君には言えない。

 それでも、王よ。僕の王は、たったひとり、君だけだ。

 君だけだよ。

 

 

 

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