阿部隆也という人、栄口勇人ってやつ
・ある朝の風景・
プルルルルル、プルルルルル
「……もしもし」 「俺」 「ん、んんー、ふぁあ、あ、阿部?」 「ふぁあ、じゃねーよ。お前今何時だと思ってんだ」 「え、えぇぇ?!やばっ!今日って朝練あったんだっけ?!なんで目覚ましなんなかったんだろ??!今何時?」 「9時」 「はああああ?!朝練どころか授業にも遅刻じゃん!!あーもー何やってんだ俺!」 「落ち着けよ栄口。今日日曜だぞ」 「え…」 「練習は午後からだ」 「え……」 「ドッキリだよ」 「…………おまえってやつは……!!」
ドッキリって柄か。阿部のばか!
・ある昼の風景・
「栄口の弁当うまそうだなー!」 「そうかな。田島のもおいしそうじゃん」 「俺の母ちゃん料理上手だからな!ゲンミツに!なーなーどれかいっこ交換しねー?」 「いいよ」 「おお、おれ、も!」 「うん、三橋もいいよ。どれがいい?」 「えーいいなー。俺も俺も!」 「水谷、パンと交換は難しくない?」 「えーそんなことないって!ほら、栄口一口あげるー」 「うるせークソレ」 「って阿部、勝手に食べるなぁ!それは栄口にあげる一口なのにー!」 「わ、水谷にもちゃんとあげるから!泣くなって〜」
下心見え見えじゃねーか!気づけよクソ!
・ある練習風景・
「栄口、ちょっとこっち来い」 「どうかした、阿部」 「額かせ。……やっぱ少し熱あるな」 「え?え?」 「お前昔から自分の体に鈍感なんだよ。気を付けろ」 「ご、ごめん。気づかなかった…」 「うつす気ねーんならちょっと部室で休んどけ」 「……分かった」 「ちゃんと氷嚢使えよ!後で見に行くから」 「あんがと。なんか阿部って、俺より俺の体に詳しいみたい」 「お前が自分に無頓着過ぎんだよ」
違うよ。阿部が見かけによらず気遣い屋なんだよ。
・ある帰宅風景・
ミャー
「あ、野良猫だ」
ミャーミャー
「鳴いてんな」 「そうだね」 「腹減ってんのかな」 「そうかもね」 「………お前って真っ先に餌とかやりそうに見えるのにな」 「はは。なにそれ。俺そんなに余裕のある人間じゃないし。優しくもないよ」 「ふうん」 「阿部こそいいの、ほっといて」 「めんどくせー」 「ひどいヤツだ」 「うるせー」
違うだろ。それが優しさじゃないって知ってるからやんねーんだろ。
・ある心象風景・
阿部は、見た目よりずっと優しい。 栄口は、ただ優しいだけのヤツじゃない。
でもそれを知ってるのは、自分だけでいいって思ってる。 |